今回は、東京・西荻窪にある「三ツ矢酒店」店長の鴨志田さんにお話を伺いました。

大正15年から続く酒店を継承していく中で大切にされているポイントや、お酒に対する考え方など、興味深い話をご紹介します。

三ツ矢酒店について

──まず、お店の歴史について教えてください。

大正15(1926)年に、私の祖父が創業しています。現在は三代目に当たる世代が切り盛りしていますね。

JR西荻窪駅が開業したのが1922年なので、ほぼ同じくらいの歴史があります。だから、特に南口にあるお店の中では一番古いのではと思います。

──小さい頃から、お店は身近な存在だったのですか?

そうですね、配達にくっついていったり、車に乗せてもらったりだとか。遊び場のようなものでしたね。

学生の頃からお店を継ぐつもりはありましたが、大学を出てから金融業界で3年ほど働きました。金融の知識があると、経営面で何かしら知識が役立つかなと思って。その経験は、現在にも生かされていると思います。

お店の在り方

──お店のHPに「一方に偏ることなく公平に。入手困難な特定銘柄も適正価格で。」とありますよね。これにはどういった意味があるのですか?

お客様が欲しい商品が、純粋に買えるお店にしたいなと思っています。飲食店・個人を問わず、誰に対してもフラットでありたいという気持ちです。

もともと立地的にも住宅街が近くて、個人のお客様が多いんです。

いわゆる「街の酒屋さん」としてあり続ける、日本酒に強い酒屋を目指しています。

──近所のお客様が、気軽に立ち寄れるお店なのですね。

そうですね、近所の方の他にも、遠方から噂を聞いて…とか、地方に発送していることもありますし。お客様の口コミやネットワークにも助けられています。

銘柄を求めて買って下さるのはもちろんですが、「三ツ矢酒店の選んだお酒だから買う」というような、セレクトショップとしての役割もあると思っています。

なので、なるべくお客様と会話をしながら商品選びをしてもらえるように心掛けています。

──インターネット通販で何でも簡単に買える時代ですが、実際のコミュニケーションってやはり大切ですよね。

お酒に対する考え方

─普段はお酒を販売されている側ですが、ご自宅ではお酒を飲まれるのですか?

飲みますよ。休肝日も設けますけれど(笑)ほとんど日本酒で晩酌をしています。

お酒が好きだというのもありますし、人に伝えるときには経験値も求められるかなと思っていますから。

─個人的に気に入っている銘柄はありますか?

イベントでもご紹介した「日高見」でしょうか。酒屋を継いで右も左も分からなかった頃に、酒蔵の社長に勉強会に誘って頂いて学んだところも多くて。

そういった面から、恩を感じている部分もあります。自分にとって迷ったときには「原点に立ち返る」といったような意味を持つお酒です。

誰が飲んでもクセが無く、合わないということがないお酒かなと思っています。

──ご自宅で飲まれるときは、何かこだわっているポイントはありますか?

「ご飯を食べながらお酒を飲まない」ことでしょうか。最初にお酒とおつまみを頂いてから食事をするのがルーティンになっています。食事の準備をしてくれる奥さんには、時々嫌な顔をされますが・・・(笑)

私の父がそのスタイルだったことに影響されていると思います。

──お父様と一緒に飲まれることも?

そうですね、いま2世帯住宅に暮らしているので、たまに一緒に食卓を囲んでいます。

普段飲むときのボトルは720mlなど、冷蔵庫に収納しやすいサイズにしています。好きなお酒を飲むというよりは、商売で生かすためという面も大きいです。

──お客様から聞かれて印象に残っている質問はありますか?

「変わった面白いお酒はありますか?」という質問は、どれをおすすめしようかとすこし悩んでしまいますね(笑)

あとは「辛口を教えてください」という方も結構多いです。後に残らない、スッキリしたお酒を好む方が多いのかなと。

─なるほど。お客様に商品を説明される際には、お酒の背景なども一緒にお話しされるとお聞きしました。

生産者(蔵元)と出会うことが多くて、作り手との距離が近いんですよね。この業界ではパーソナリティも大切で、お互いの「信頼関係の構築」も重要だと思っています。背景も知っていただけると、お酒に対して愛着が湧き味の感じ方も変わってくるのかなと思います。

──若い方の「お酒離れ」について感じることはありますか?

そうですね。例えば「父の日」など贈答品としてお酒を購入される方は多いですが、「自分ではお酒は飲まないので、おすすめのお酒を教えてください」と仰るケースは増えているなと感じます。

「飲めるのに飲まない」という方は、世界的にも増えていると思います。そういった背景から、お酒を選ぶ際に「ラベルやパッケージの見た目」を重視される方も多いです。

──日本酒は、ビール等に比べると敷居が高いイメージもありますよね。

確かに「日本酒はアルコール度数が高くて、次の日に響くから避ける」という方は多いです。そういう方には、比較的度数の軽いタイプが飲みやすくて良いのかなと思います。

最近では飲みやすいサワー系が主流で「とりあえずビール」という機会は減っていますよね。お酒の文化自体が、時代に合わせて変化しているのかもしれません。

──お酒って、時代に密接に関係しているのですね。

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■プロフィール■
株式会社 三ツ矢酒店店長 鴨志田 総一郎さん
大正15年から続く三ツ矢酒店3代目
一方に偏ることなく公平に。入手困難な特定銘柄も適正価格で。をモットーに日々街の酒屋さんとしてはたらく。

■ショップ情報■
西荻窪 三ツ矢酒店
〒167-0053 東京都杉並区西荻南2丁目28番地の15 http://sake-mituya.com/html/