被災した 1 階だけを全面改装する「ハーフリノベーション」

2019 年台風 19 号により 1 階の約半分が床上浸水。建物は 2 世帯住宅の間取りで、被災さ たご夫妻は 2 階にお住まいでした。

1 階には汚水・汚泥が溢れ、気落ちしたご夫妻は建物の売却をご検討。

そののちに、リフォームをして住み続ける選択をされましたが、当初奥様はリフォームにあまり前向きなご様子ではありませんでした。

普段は 2 階で生活しているので、1 階には水回り設備を入れない方向でご検討とのこと。お部屋がきれいな状態になれば良い、というお考えでした。

そこへ思いがけない好機が重なることに。
偶然にも、転勤が続いていたお嬢様家族が帰ってくることになったのです。かわいい盛りのお孫様 2 人もご一緒とのこと。

さらに費用面では、住宅保険や災害補助金が活用できることも分かり、お嬢様家族と二世帯で暮らすという選択が現実味を帯びてきました。

1 階にも水回り設備を整え、お嬢様家族を迎えるためのリフォーム。 当社からは「ハーフリノベーション」で、新しい二世帯住宅として再生する方法をご提案いたしました。

ハーフリノベーションのメリット

ハーフリノベーションとは、1 階だけを構造の状態まで解体し、間取りのみならず、住宅性能の向上まで図るものを言います。

断熱材を交換して断熱性能の向上、耐震補強の見直しなども可能。フルリノベーションと比べて、工事費が抑えられることが大きなメリットです。

また、ハーフリノベーションは、老後を見据え 1 階だけで生活できる間取りに変えたり、子世帯を呼んで二世帯住宅にしたり、ライフステージの変化に柔軟に対応できます。

住み慣れた家を手放すことなく、暮らしやすくモデルチェンジできる方法です。

建具までこだわり抜いた和室

正面に見える、縦格子を多く使用した「縦繁障子」は、奥様が和室の中で最もこだわられたインテリアです。建具業者協力のもと、テレビ CM で気に入ったデザインに近いものに仕上げました。

そして、和室で大きな面積を占める畳。畳縁の色はめずらしい水色となっており、和室を美しく清楚に見せます。

京唐紙を使用した仏壇
間仕切りの襖

床の間の隣の収納には、仏壇が納められています。

下段の襖には京唐紙の「波につぼつぼ」。奥様のご希望で、京都から取り寄せた紙を張りました。

京唐紙は、版木に布海苔や雲母などを調合した絵具をのせて摺るもの。版画の一種と言え、手仕事ならではの味わいと優美さを兼ね備えています。

京唐紙は仏壇収納の下段と、間仕切りの襖に取り入れました。

キッチンを移動して家事がしやすく、家族も集いやすい間取りに

1 階の水回り設備の中で、唯一離れた場所にあったキッチン。

お嬢様家族の動線や家事のしやすさを考慮し、キッチンは建物の中央に移動することをご提案しました。
玄関から廊下を進めば、すぐにダイニングキッチンにアクセスできるので、家族が集いやすい間取りになっています。

キッチンは壁付け型のシステムキッチンを採用しました。対面型キッチンと比べると、壁付け型キッチンは使用面積が少なく、LDK 空間を広く使えるレイアウトです。

また、対面型キッチンはダイニングテーブルとの動線が長くなりますが、壁付け型キッチンの場合は背面にダイニングテーブルを配置することも可能。配膳の動線が短くなるというメリットもあります。

ダイニングの壁には、存在感のあるアーチ形の出入口。ご家族にとって、思い入れのある場所のひとつでした。

リノベーションでは、このように住まいの面影を残して再生することも可能です。元は扉のない出入口でしたが、隣室は居室になるため引き戸を取り付けしました。

アーチ型のLDK出入口

さわやかなブルーのアクセントクロスはお嬢様家族のご要望。アーチ形の出入口が LDK のシンボルとして、より際立つ空間になりました。

住まいの面影を色濃く残す玄関

右手に見える印象的なアクセントクロスは、ウィリアムモリスのデザインです。

奥様が気に入って選ばれた「サンフラワー」の壁紙は、以前のお部屋に貼られていたデザインでした。 そして、右手手前と左手奥に見えるハンガーは、被災後に再利用できる物として唯一残った物です。

玄関のインテリアコーディネートは、思い入れのある物やデザインを中心に構成しました。内装は新しく変わっても、このような形でご家族や住まいの思い出を継承することができます。

また、二世帯共有の玄関となるので、収納はローカウンターから大容量のトール収納に仕様 変更。さらに飾り棚収納を加え、二世帯分の靴を収納できる大きな玄関収納をつくりました。

水抜きから乾燥を経て、生まれ変わった木質パネル

床上浸水でダメージを受けた建物は木質パネル工法でした。

1 階の木質パネルに穴を開けて水抜き、穴から断熱材を取り出し、約 3 か月の乾燥期間を経ています。 その後断熱材を入れ直し、新たな木質パネルとして再生。床下は防蟻処理と消毒。災害対策マニュアルに従った対策を講じました。

住み慣れた家に暮らし続ける幸せ

初めてお会いしたときは、リフォームに前向きなご様子ではなかった奥様。

ハーフリノベーションをすることが決まってからは、ご自分で襖紙を取り寄せたり、壁紙を選んだり、打合せでお会いする度に笑顔が増え、楽しそうなお姿が印象的でした。